「特に問題ありませんね。きれいな膝をしています」
とは整形外科の先生。
整形外科では何枚ものレントゲンを取ったので、お医者さまのおっしゃることに間違いはなさそうだ。
私は整形で診てもらうために空手をお休みしますと道場には伝えていたため、翌日先生にそのことを早速お伝えした。
「特に問題ないとのことです」
「そうですか」
道場主の先生は短く返事をしただけだった。
問題は今日の稽古は出られるのかどうか。キューリくんが痛いといえばまた、見学か帰るかしなければならない。
すると道場主ではなく、ここでのナンバー2に当たる先生が私に話しかけてくる。
「少しお話したいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
バカに丁寧に聞こえた。
私はナンバー2が指し示すままに、道場の隅の方へと誘導される。
彼がドカリと腰を下ろし、私もその場に座ると話がはじまった。
「キューリくんの膝の原因はイジメだと思います」
(イジメ?!)
「宇佐美がキューリくんに執拗に技を繰り出してはイジメているんです」
ああ、あれはやはりイジメだったのか。
「それで私はそれを見つけるとアイツのケツに蹴りを入れたりしているんですけどね」
(え?それだけ??)
ナンバー2は得意そうにそう私に伝えてきた。
何故口頭で注意しないのだろうか。頭より体で分からせるということなのだろうか。
宇佐美くん本人も、何故おしりを蹴られているのか、理由が分からないのではないか?
「とにかく宇佐美の暴力、あれはイジメで間違いないです」
「…」
私は混乱していたので、この話を一旦持ち帰ることとする。
それよりももうすぐ稽古がはじまるので、キューリくんに道着を着させなければならない。
キューリくんと急いで更衣室へ入る。
年中のキューリくんなので、一人ではまだ着替えることが難しく介添えが必要だったのだ。
道着を着させ、帯を結ぶという時点で何故か宇佐美くんがニヤニヤしながら私たちに近付いてくる。
「キューリくん、今日もボコボコにしちゃおっかな~」
嬉しそうに、いやらしい目付きで宇佐美くんがキューリくんに絡みつく。
恐怖を感じたキューリくんはその場で号泣。当たり前だ。
学年が1つ上で自分より体格のよい宇佐美くんにそんな風に脅されればだ、年中のキューリくんとしてはもう泣くことしかできないだろう。
「向こう行ってろよ」
思わず私の口から突いて出る。
宇佐美くんはやはりニヤニヤしたまま、更衣室を退室していった。
キューリくんはシトシトした感じにはなったけれど、泣き続ける。
「どうするキューリくん。今日はお休みしてもいいよ?」
涙ながらにコクリと頷く。
「今日はもう帰ります」
稽古を受けずに帰ることにした。
おそらく状況を把握していたのだろう。ナンバー2は「わかりました」と意味ありげに私にオーバーに返事をしてきた。