今日の東京は寒い。
大人は家の中で丸まっていたいけれど、キューリくんはそうはいかない。
「ねえどっか連れてってよ」
「大人は仕事があるから午前中は遊んであげられないなー」
「なんだよ、ちぇー」
そう悪態をつくと、半そでTシャツの上に薄手のジャンパーを羽織って外へ1人で遊びに行った。
外といっても、危ないので家のガレージの中だけしか許していない。
だがしかし、今はもう小学1年生ではなく小学2年生だ。冒険心や悪知恵がはたらいて、上手い言い訳を考えて脱走するかもしれない。
そう心配になって雨戸を開けて、本当に庭で遊んでいるのかを確認する。
すると庭にある、腰掛には丁度いい石に座り込んで、何やらスコップとじょうろを使って庭の土を掘り返している。
雨戸が開くと、キューリくんは私の顔を確認するために、朝の東向きの太陽をまぶしそうに遮りながら顔をこちらに向ける。
「何作っているの?」
「トンネル。いや違う。地下」
おや。もしや『トンネル』よりも『地下』って言った方が2年生っぽいとでも思ったのか。
「お母さん、今日は午後から図書館に連れてってくれるんでしょ?」
と確認するキューリくん。
そうだ、今朝の食卓で、私はキューリくんとそういう約束をしたのだった。覚えていたか。
「そうだね、それまでに仕事を済ませちゃうからね」
と言うと私は窓を閉めた。
図書館は家からは遠く、まだちょっとキューリくん1人だけで行かせるのは不安なので、その都度付き合っている。
と言っても活字の嫌いなキューリくんなので、やたらに変わったもの(例えば紙芝居や図鑑)を借りたがる。
大人の望むものと違うものを好み、そうして借りていくはめになる。
今日もきっとそうだろうなあ、と思いながら、庭の土をほじくりかえしているキューリくんをカーテンの陰からそっと眺めようとすると、あれ?いない。
ついに脱走か。
主人に尋ねてみる。主人はのんびりとした声で「2階じゃない?」と教えてくれた。
私は2階にあるキューリくんの部屋へ向かう。
すると私の足音に気付いたのだろう、部屋からキューリくんが飛び出してきた。
「パッドで地図を調べていたんだよ」
怪しい。私がまだ何も聞いていないのに動揺しているではないか。
我が家では、パッドを使う時間は1日30分までとは決めているが、キューリくんに一台授けている。
「本当は動画とかゲームやってたんじゃないの?」
「やっやってないよ!」
もうこれは絶対やっていた雰囲気だ。
やるな、2年生!