登園拒否 その8

我々両親は転園を考えるようになった。と言っても、また保育園に転園したのでは、似たような環境が待っている可能性が高い。

だからこの際幼稚園へ転園してはどうだろうか?となり、まずは近所の幼稚園を当たってみることに。

すると近所の幼稚園4園は全て満員であり、「年長さんから入るという形で、11月に願書を出していただけますか?」などという無責任なところもあった。

4軒もの幼稚園に一気に断られて、全てを否定されたような、それだったら別の保育園に転園するしかないのかと、やるせない気持ちのまま主人が帰宅するのを待つ。

夜の食卓では当然、今日の出来事が議題となった。

「困ったねー」

珍しく主人が声を上げる。

「もうこのまま、年長になるまで家で過ごさせるしかないのかな」

「うーん。ご近所園は全滅だったけれど、こうなったら少し遠い場所も探してみようか?」

「でもあまり遠いと、私が具合悪い時にお迎えに行けなくて、困っちゃうよね」

「そうだなー」

手持ち無沙汰からビールをあおった。おつまみを適当につつく。

「あれ?ちょっと待ってよ。もう一つ近所に幼稚園あったよ」

「どこ?」

「緑山幼稚園」

「え?あるけどあそこは、お受験しないと入れないじゃない。無理だよ」

「そう?全く無理とは言い切れないと思うけどな」

何を夢語りしているんだか。私は再びビールを流し込む。

「そんなに言うならさ、お父さんが緑山幼稚園に連絡してみれば?私は今日の4軒でうんざり」

「わかったよ。早速明日問い合わせをしてみるよ」

どうせ相手にされず、門前払いをくらうのが目に見えていたけれど、言い出したら意外と頑固な主人なのでお任せすることとした。

キューリくんは我々両親の会話の意味が殆ど分からなかっただろうが同じ食卓には着き、野菜は全てよけてお肉だけを頬張っていた。

「キューリくん、新しいお友だち沢山作りたい?」

「うん!キューくんお友だち作りたい」

この半年、空手教室で他の子どもたちと接触する以外は、お友だちと遊ぶだなんてことをしてこなかった。

お友だちに飢えている状態なのだ。

「そうか。じゃあお父さんが明日、新しい幼稚園に連絡してみるね!」

「ようちえんて、なあに?」

「幼稚園ていうのは、保育園に似ているんだけど、お昼食べたら、もう帰っちゃうんだよ」

「えーじゃあ、お友だちとあんまり遊べないね」

「そんなことないよ。そこの幼稚園は小学校もあるから、お友だちとはずーっと一緒なんだから」

主人は受かる確信でもあるという口ぶりだった。

「えー。じゃあキューくん、ようちえん行く」

半分口車に乗せられる格好で、キューリくんはブドウジュースで口の周りにおひげをたくわえながら「もうごちそうさまねー」と食卓を跳ねた。

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