登園拒否 その5

松濤館流の道場へ見学に行った翌日、早速入会するために道場を訪れた。キューリくんを置いていくわけにもいかないので、もちろん一緒に連れていく。

昨日見学の今日申し込みだなんて、私はすごく焦っていたのかもしれない。保育園を一週間以上休み、未だに登園については激しく拒否するキューリくんをどうにか真っ当な道へ戻してあげたい、その一心だったように思う。

申し込みに訪れたこの日も週6回稽古があるだけに、これから小学生未満の稽古があると誘われた。

「キューリくんどうする?稽古に出てみる?」

素直に頷くキューリくん。私は少し安心した。それはきっと、キューリくんが正常な道へ戻ってくれる伝手を自分でつかみ取ってくれたようにも思えたからだ。

「稽古はじめるぞ!」

見学の時にいた大柄でメガネの道場主らしき先生は、見学の時の優しさが消え去り、大きくて怖い声を張り上げた。

私もその変わりようにびっくりしたのだけれど、一番びっくりしたのはキューリくんだろう。私にしがみついて後ろに隠れてしまう。

「ほら、こっち来いよ」

大きな体でキューリくんに迫ってくる。

キューリくんは恐怖がピークに達したのか、ギャーギャーと大声で泣き出してしまった。

先生は仕方ないかという感じできびすを返し、少し遠くから「入りたくなったら入ってこい!」と、見学の時とは別人に成り代わっていた。

私は、流派が違うといえど、空手の経験が多少あったので、「キューリくん、準備体操だけでも参加しよう、お母さんも一緒だから」と誘う。

ところがキューリくんは頑なに拒み、私の洋服の裾が破れるのではないかと心配するくらい、ギュッと掴み、泣き続けるのだった。

結局稽古には参加せず、先生には申し訳ありませんでしたと伝え、明日からもよろしくお願いします、と頭を下げることしかできなかった。

稽古終わりに子どもたちは、自分の好きなもの1個だけアメやお菓子がもらえるのだが、先生は特別に稽古へ参加しなかったキューリくんにも、「何か選べよ」と配慮してくださった。

するとキューリくんより大きそうなので年長なのだろう、回りの小学生未満の子どもたちとは一線を画すうまさの男子が「稽古も出てないくせに、お菓子もらいやがってよ」と先生には聞こえない程度の小さな声で吐き捨てるように言ってから道場を去った。どうやらキューリくんには聞こえてないようだったので、そこは安心する。

確かに彼は幼稚園にしてはうまいのかもしれない。けれどそれはこの道場の中では、という位置付けなのであり、(誰か彼のうぬぼれを叱ったりする大人はいないのか?)と心配にもなったが、これだけ道場に通う人数も多いと、そんな変な子どももいるかと、この時はあまり気にしていなかった。

とにかく道場へ入った初日のキューリくんというのは泣き叫ぶだけで終わってしまい、キューリくん自身の意志で入ったはずなのに、上手くいかないこともあるのだなあと、でもこれは想定内ではあったので、私の心にもまだ余裕があった。

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