「お母さん。ぼくさっきカワイイって言われちゃった」
「誰に?」
「さっき、角のところ。お姉さん3人に言われた」
キューリくんは納得のいっていない様子。
小学2年生ともなればだ、「オレは男だ」という意識が強くなってくるのだろう。
『カワイイ』なんて言われたことが誉め言葉ではなくてバカにされたように思えたようだ。
ちなみに角のところ、というのはよくドラマや映画のロケ地になっているところなので、女優さんや俳優さんに出くわすこともたまにあったりする。
キューリくんは学校からの帰り道、どうやらロケをやっている休憩中の女優さんたちに声を掛けられたようなのだ。
確かにキューリくんは親の私が言うのも何であるが、可愛らしい顔をしている。
だからその見た目だけで女優さんたちは「カワイイ」とおっしゃってくださったのかもしれない。
キューリくんの内部にはADHDという熱い溶岩のような凶器とも成り得るものが存在するなんて知らずにだ。
◇
見た目には分からない障害や病気というのは理解されにくく本人はとても苦しむ。
私自身、SLEと双極性障害という病気であり、これらは見た目には全く分からないために、多くの人に誤解を招いている場合がある。
身近なところでいえば、キューリくんの同級性のお母さま方からは、とてつもない誤解を受けているように思う。
「なんであの人は元気そうなのにPTAの役員を引き受けないのか」
「なんであの人は懇談会に出席しないのか」
「なんでなんでなんで…」
とまあ、陰口のようなものを叩かれているのは私もそこまで鈍感ではないので知っている。
けれどなんというか、いちいち1人1人を説き伏せて回るのもおかしな話であるし、それに詮索されるのも面倒臭いので、黙っている。
というのは私の病気であるからこそできるワザなのであるが。
◇
キューリくんの場合、周りの人間に隠さない方がよいのではないか、という風にも思う。知ってもらった方がスムーズな人間関係が築けるはずだからだ。
けれど必ずと言っていいほど、大して知識のない人が、無知なことをわざわざ言ってくることで、ADHDの本人が傷つくこともある。
だから結局そういう輩からキューリくんを守るためには、ADHDであるという事実を伏せ、そうして一般人に紛れ込ませてなんとか生活を送らせるしかないのか、とも考えたりする。
◇
女優のお姉さんたちにはキューリくんはただカワイイ小学2年生であったこと。
でも実際はADHDを抱えているのだという現実。