人生ゲームは人生を狂わす

お誕生日プレゼントに叔父から人生ゲームをもらい、以来毎晩人生ゲームに興じるキューリくん(主人と私は勿論仕方なく付き合うわけだが)。

その影響で昨日はほとんど遅刻に近い時間に眠い体を無理矢理起こされ、不機嫌にて起床した。

「もっと寝たい」というので、学校へ行った方がお友だちも沢山いるし、楽しいんじゃない?とそちらの方へ誘導する。

なんとか用意も終わり、さあ出発だという時に「こんなギリギリの時間に学校へ行きたくない」と言い出した。

キューリくんは時間に余裕を持って行動することで、心の準備をして己を整えているらしいからだ。

それは学校に限ったことではなく、習い事なども含め、彼の人生全般をそういう風にゆったり生きることで、どうやらバランスを取っているのだ。

「だったら夜遅くまでゲームをやらなきゃいいんじゃない?」

「ムキムキムキー!」

半分言葉になっていない声を玄関に響き渡らせる。

そういうキューリくんを無視して玄関のドアを開け、私は登校を促した。

キューリくんはしぶしぶ外へ出る。

「いってらっしゃい」

「イッテキマス」

消え入りそうにそう言うと、うなだれながら玄関の門を開けて学校へと出発する。

この時だいたい私は、キューリくんが見えなくなるまで玄関のドアを開けてキューリくんに手を振り続けるのだけれど、昨日も同じようにした。

キューリくん、背中向きなので何を言っているのかまで聞き取れなかったのだけれど、とにかく何かをつぶやいて歩いているようだった。

私は毎日早朝に仕事をやっていることもあり、はやく玄関のドアを閉めて布団へもぐり込みたい、そういう心境だった。

キューリくんよ、はやく見えなくなっておくれ。

するとキューリくん、背中をくるっと向けて「僕学校へは行かない!」とつかつかとこちらへと戻ってきた。

「どうしたの?なんで行かないの?」

ワイドショーのインタビュアーのように食いつく私。

「…えーだってそれは、担任の先生が僕は悪くないのに、僕のことばっかり怒るからだよ」

「キューリくんは先生が信用できないってこと?」

「…そうだよ」

「でも家にいても、お母さん寝てるし、やることなくて詰まらないと思うよ?」

「いいよ。学校に行くよりずっとマシ!!」

そうキューリくんは吠えると早速紐をくるくるとコマに巻き付け、そうしてコマ遊びに熱中した。

学校には仕方なく「本人にやる気がありません」という何ともふざけた理由で欠席の連絡をし、家で過ごすこととする。

それならばと私は、いつも夕方にやらせる家での勉強をキューリくんと一緒にやることにした。

「病気でもないのに学校を休んでいるんだから、お勉強はきちんとやってもらうよ」と嫌味たっぷりにキューリくんに伝える。

「それでも学校へ行くよりはマシだよ」

まだ言うのか。

勉強を見終わると私に急激な眠気が襲ってきて、頭がはたらかない位の状態になる。

「お母さん、寝てもいいかな?」

相変わらず飽きもせずコマを回すキューリくんに私は聞く。

「別にいいよ。僕一人で遊べるし」

遠慮なく横たわらせてもらう。

ところが10時半頃だろうか。突然キューリくんが寝ている私を起こし、もうランドセルを背負った状態で「やっぱり学校へ行く」という。

理由は『家にいてもつまらない』からだそうな。

そりゃそうだよね、シーンとした家の中で、一人黙々と遊ぶだなんて、学校の楽しさを知っているキューリくんからすれば詰まらないの極みであろうし。

そうだそうだ。さっさと学校へ行った方がいいよ。

こうしてキューリくんは遅ればせながら学校生活に参加することとなったのだ。

「小島先生と『勉強嫌い同盟』を組んできたよ!」

学校から帰ってくると早速鼻を膨らませながら、そうキューリくんが興奮して教えてくれた。

小島先生とは新任の先生でキューリくんの担任であり、おそらく『やる気がなくて学校をお休みします』と聞いて、勉強が嫌いなのだと、気遣ってくださったのだろう。

子どもに寄り添える、優しい担任の先生でよかったじゃないかキューリくん。

まあ実際勉強が嫌いなキューリくんなのだけれど、それでも皆がいる学校へ行った方が家で遊んでいるよりずっと楽しいでしょ?

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