「お母さん、クリーム塗ってみたらいいんじゃない?」
最近のキューリくんの口癖になりつつある。
クリームというのは、顔にできたシミやソバカスを薄くするというクリームらしく、どうやらテレビ通販番組か何かで見たらしい。
ちなみに自宅にはテレビを置いていないので、おそらく病院の待合室や薬局で見たのであろう。
つまり非日常の空間で見せつけられたシミクリームの宣伝は、キューリくんにとって、とてつもなくインパクトがあったのだと思われる。
そして勿論私自身も気にしていることだけれど、キューリくんもとても気になっているらしい、私の顔のシミ。
それをどうしても取り去りたいのだろう。毎日のように繰り返し説いてくるようになった。
「お母さん、本当なんだってば。おねえさんが実験でつけたら、シミがぽろっと取れたんだよ」
決して直接的ではなく、間接的なものの言い方で私に説明するキューリくん。
「お母さんはシミやソバカスあるの?」
白々しい。あるに決まっているじゃないか。
「そうかあ。お母さんは色が白いからね。シミやソバカスになりやすいんだよね」
どこで得てきた知識なのか。どうせ例のシミクリームの宣伝で得たものなのだろうが。
私もだ、レーザー以外なら色々なことを勿論試している。でもどれもダメなことを知っているので、今更キューリくんが見て感動したという『シミポロリ』的な商品に飛びつこうとはしない。
はっきり断っておかなくては今後毎日勧誘されそうだ。
「お母さんはね、そのクリームいらないの。お肌が弱くて痒くなっちゃうから」
「…そうなの」
みるみるうちに顔色が曇るキューリくん。
私の顔のシミ、よっぽど取ってもらいたいのだろう。
でも冗談ではなく肌がとても弱いので、どんな化粧品でも使えるというわけではないし、紫外線過敏症なので、レーザーでシミを退治する、というわけにもいかず、こうして放置しているのだ。
そのことをキューリくんに分かってもらうのは、まだ早いかな、と思いながら、伝えられる範囲では伝えたつもりである。
◇
「お店屋さんまだかなー」
重い空気を変えようと、キューリくんは元気な声を出した。
私とキューリくんは近くのスーパーへお買い物に向かっていた。
それにしても昨日は暑くて太陽がギラギラと照り付けていた。
太陽よ、もうこれ以上私のシミを増やしたり大きくしたりしないで。
また小さなシミクリーム宣伝部員に目を付けられますから。