家の中にチャカチャカチャカチャカと床をたたく音が鳴り響いたと思ったら、ドンドンドンと大きな揺れが伴奏のように繰り広げられる。
そう、これはキューリくんが家の中で二重跳びの練習をやっているところだ。
我が家ではお馴染みなのだが、特にマンション住まいの方からすればとんでもない光景であり、耳を塞ぐどころか、キューリくんの行動を制することだろう。
けれどここは駅から離れた住宅地である。畑を拡げる土地もあるほどに、一軒一軒の区画に余裕がありとてものんびりしている。都会的な香りは一切ない、おっとりした場所だ。だから誰にも怒られたりなんかしない。
最近夕食の前後、キューリくんは二重跳びの練習に勤しんでいる。居間のど真ん中を当たり前のように独占し、例のチャカドンを繰り返す。まあそれだけなら百歩譲って良しとしよう。
ところがキューリくんの場合、それだけでは終わらない。
声がものすごくデカいのだ。失敗した時には狂ったように「がああああ」とか「ちっきしょー」と大声を張り上げる。
主人と私からすれば、チャカドンの音よりもこちらの叫びにびっくりするわけだ。
「がああああ」「もうちょっと静かにできない?」
チャカドンドン。ビシッ!
「くっそーーーー」「キューリくん、うるさいんだけど」
チャカチャカドン。バッシ!
「いてーよークソー」「うるさいんだよ!」
私もとうとう切れる。
「キューリくんさ、両手がどんどん上に上がってきちゃっていて、それじゃ縄が短くなって跳びづらいよ」
「腋は軽くしめないと」
「うん、わかった。やってみる」
チャカチャカチャカドンドテーン!
「なんだよ、やっぱりできないじゃないかよ、バカヤロー」
「キューリくんが下手くそなだけなんだよ!」
「親がそういうこと言うなんてヒドイじゃないか!」
「悔しかったら練習してうまくなってみせなよ」
「くっそーーー」
縄跳びを両手に強く握りしめ、キューリくんは再び挑戦する。目からは涙がボロボロとこぼれ落ち、ほっぺたは怒りで真っ赤だ。
助走のチャカチャカがはじまる。腹をくくったのか、大きく目が見開かれた。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!
何だって?!飛べてるじゃん、9回も。
その場に居合わせたキューリくん、主人、私の3人して驚いてしまい、一瞬時が止まったように顔を見合わせ固まる。
ワハハッと誰が一番というわけでなく、皆の口から笑いがこぼれた。
その後キューリくんが一番ゲラゲラ腹を抱えて笑っていた。