昨日のこと。キューリくんが学校から帰ってくるなり、下川さんに箸箱をゴミ箱へ捨てられたと訴えてきた。
伝えてくる状況が鮮明であり、嘘をついているように聞こえなかったので、学校へすぐに質問の電話をした。
キューリくんが言うような指導が本当に先生からされたのか、気になったからである(自分で箸箱を洗ってこいと、担任から命令されたという)。
学校は実質2人担任制である。ベテランの学年主任と若い担任のペアで教室をまとめていく、というのが基本的な配置なのだけれど、キューリくんのクラスの若い担任は今年教師になったばかりである。
なので電話をしても何となく自信なさげな回答であるし、とても頼りない。
結局明日キューリくんと下川さん、それにもう1人事件に関わった生徒の3人を呼び出して話を聞くということになったのだが。
私はついつい気持ちの高ぶりが抑えられず「何故その場で聴取しなかったのか」とその若い教師を問い詰めた。
若い教師はシドロモドロであり、話にならないのでベテラン先生に話を代わってもらう。
「私も加わって明日必ず話は聞きます」
「イジメとからかいの境界線というのは難しいかと思いますけれど、これがもし事実だとすると悪質だと思います」
「ところでキューリくん、家に帰ってから他に何か言ってませんでしたか?」
話題を違う方向に舵を切るベテラン教師。
「そうですか。自分に都合の悪いことはしゃべらないんですね」
はじまった。このベテランは1年生からの引き続き担当なのだけれど、何か問題があって訴えると、必ずキューリくんの悪いことを被せて話をそらす、そういう手法を取る人なのだ。
「何か問題がありますでしょうか」
「ありますあります。沢山ありすぎてお伝えしきれないくらいです」
「ADHDということで殆どのことに目をつぶっていますが、問題だらけです」
「このままいけば必ずダメになりますよ」
ヒステリックにまくし立てるベテラン。
「近々話し合いを設けたいのですが」
ベテランは自分に酔ったように話が止まらない。まるでこちらの話を受け付ける態度ではなかった。己こそが正義という態度を貫いている。
「私たちもですね、キューリくんを褒めようと必死にそういう場所を探すんですが、なかなか見つからないんですよ」
メタくそな言われようだった。
なお私はキューリくんが1年生の時、この先生と唾を飛ばす勢いでバトルを交わしたことがある。
それにベテランのおっしゃることも、もっともだと理解できたのでだまって聞いていた。
しかしそんなに言いたいことが沢山あるのならば、貯めて言わずに連絡帳に書くだとかしてもらえればいいのに、たまたま別件で電話をしたら攻め立てるというのは、何かやり方がおかしな気もする。
私が電話をしてたまたまこういう風にこのベテランは毒を吐きまくっているけれど、電話をしなければ問題を山積みにしたまま1学期を過ごしていた、ということになる。
ベテランとの電話を切り、キューリくんが寄ってくる。
「渡辺先生何か言ってた?」
「明日3人の話を聞いてくれるって。それと」
「なに?」
「キューリくんが態度を改めないと、学校をやめることになると思う」
私は我慢できずにキューリくんに本当のことを告げてしまった。
キューリくんの顔が一気に曇る。それはそうだ。学校が、お友だちがキューリくんは大好きなのだ。
それにしても学年主任のあの突き放した態度は何なのだろうか。まるで一緒に改善していこう、という態度ではなかった。
「渡辺先生がそう言ってたの?」
そう言われたのも同然であったけれど、キューリくんには説明が難しかったし、嘘をつく。
「そうじゃないけどね。お母さんがそうじゃないかなーと思っただけ」
キューリくんは納得したのかしていないのか、私との会話を終わらせ、コマ遊びをはじめた。
今日、箸箱事件の聴取を行い次第先生から連絡があることになっているので、そこではっきり聞いて見ようと思っている。「それは退学ということですか?」
勿論双極性障害の私には、このような問題は激高するネタなので、連絡は温厚そのものの主人に来ることになっている。
ADHDのキューリくん、箸箱をゴミ箱に捨てる下川さん、学年主任のベテラン(そして私も)。
正直このお話にはまともなのが1人も出てこないわけだけれど、何故かキューリくんだけが吊るし上げられるという現実。『キューリくんだから』という決めつけ。
教師という職業が忙しいことは確かに頭が下がる。けれど全力で否定しかしてこなかったベテランの態度というのは甚だ疑問である。
また下川さんというのは、1年生の時にキューリくんのデザートを盗んでいたことが発覚し、問題になったような子なのだ。そういう子なのに「下川さんがやるわけがない」という決めつけをしている点。
その学級の中に救いはあるのだろうか。先生の決めつけだけで運営されているような教室で、真実が真実と認められるようには到底思えないのだ。