「ゆっくり本を読ませてくれ」
「ゆっくりお茶を飲ませてくれ」
「ゆっくり寝かせてくれ」
そんなことを何度も思ったこの休み。
とにかくキューリくんと私は、いつもベッタリとくっついて春休みを過ごしていた。
私が具合が悪くて床に伏していると(病気持ち)、枕元に沢山遊び道具を持ってきて、「ねー遊ぼうよ!」としつこく誘ってくる時もあった。
「ごめんね、お母さん具合が本当に悪いんだ」
と言うと「そっか」と案外聞き分けが良く、私は安心して一眠りし眠りから覚める。
するとキューリくんが描いた作品がいくつもいくつも白い壁にベタベタと貼り付けられていて、びっくりしたこともあった。
そういえば先日、約束していた藤子・F・不二雄ミュージアムへ行くことになった。
「ふーん、キューリくんとっても楽しみだなー」
「わくわくするなー」
といった感じで興奮しっぱなし。
ところが当日私は具合がとても悪くなる。
でもキューリくんが楽しみにしているんだし、行かなきゃと無理矢理身支度。
まずはファミレスで二人して腹ごしらえすることに。
出掛けてしまえば何とかなるだろう、と私は甘く考えていた。
キューリくんはファミレスでポテトをつまみながら「お母さん、僕とっても楽しみ」を連呼する。
一方私の体はどんどんと状態が悪くなっていくばかり。
キューリくんに恐る恐るたずねてみる。
「あのね。今日お母さん具合悪くなっちゃったみたいで、美術館まで行けないかもしれないよ」
「じゃ、僕がおんぶして連れて行ってあげるよ」
キューリくんは相変わらずポテトをつまみながら、正義に満ちた瞳をしていた。
「ううん、お母さん体重重いから、キューリくんはおんぶできないよ」
「えーオレ力持ちだからできる」
語気強くキューリくんは細腕に力こぶを浮きだたせ、「ほらね」とポーズを取る。
「キューリくんごめんね。お母さん気持ち悪いの」
「…そっか。じゃあはやく家に帰ろう」
キューリくんは大してゴネることなく、私の事情を察してくれ、帰宅した。
本当はとっても行きたかったろうに。その気持ちを飲み込んだに違いない。
家に帰ってから、さっそく「予習しなきゃ」と古いドラえもんの映画を観ていたキューリくん。
もうこれ以上、がっかりさせるわけにはいかないんだ。
こういういきさつがある以上、今日は何としてでも予約を取り直したチケットを手に、這ってでも美術館へ行くつもりだ。