ヘアワックスと男心

誰かモデルがいるんでしょうね。

お風呂上り、以前からキューリくんがクシを使って自分の髪を撫でつけ、七三ヘアにしてみたり髪を逆立ててツンツンとしたヘアスタイルにしては、鏡の中の自分にウットリしていたのは知っていた。

けれど知らんぷりをしていた。何か見つかりたくないようにお風呂場のドアを閉めてやっていることが多かったし、2年生ともなれば、親に隠しておきたいことの1つや2つあると思ったからだ。

そして昨日の晩。いつものように髪を撫でつけ終わると私に寄ってきて、明日どうしても髪の整髪料ワックスをつけて学校へ行きたいというのだ。

「なんで?」

「その方がかっこいいから」

「キューリくんはそのままでもカッコいいよ」

「そんなことない。全然モテないもん」

「ワックスをつければモテるの?」

「うん。ワックスをつけている子は皆モテてるよ。佐藤くんも宮部くんも大倉くんも斉田くんも」

「ワックスをつけているからってモテてるわけじゃないでしょ?」

「ううん、宮部くんに聞いたら、ワックスをつけるようになってモテるようになったって言ってたもん」

そうですか。

「でもキューリくんみたいに小さな子がワックスなんて毎日つけたら、毛穴に詰まって髪の毛が生えてこなくなっちゃうよ」

「それでもどうしても明日だけでもいいからワックスつけてみたいの!」

「モテたいの?」

「そう。ワックスをつければ結婚相手が探しやすくなると思って」

「仮にだよ。ワックスをつけてキューリくんがモテるようになったとしても、それはキューリくんを好きなんじゃなくて、ワックスをつけたキューリくんが好きなだけ」

「つまりワックスの髪型が好きってだけで、キューリくんのことなんてどうだっていいってことだよ」

「それでもどうしても明日、つけていきたい!」

そこまでしてモテたいのかねぇ。

「あっでもキューリくん。制帽かぶっていくから、ヘアスタイルが崩れちゃうよ」

「大丈夫。帽子はふわっとかぶっていって行くから」

そういえば夕方、キューリくんはまだ見ぬ未来の家族のために車選びをしていた。

レクサスは高いから買えないし、小さな車だと事故に遭った時に心配。クラウンなんていいんじゃない?

という具合に、将来を具体的に把握しようと、今住む家も2世帯住宅にして住もうという計画を勝手にしていた。

子どもが3人という家族計画は、おそらくキューリくん自身が1人っ子で寂しいので、にぎやかな方が良いと思ったのか。

そのためには比較的大きな車が必要だ、そう考えたようだ。

しかし小学校2年生が、家の間取りを考えて乗る車まで具体的に考え、それを勝ち取るためなのかモチベーションを上げるためにワックスで髪の毛を固めたがる。

「お母さん小学生の時、ワックスしてなかったけどモテたよ。モテるのってワックス関係ないんじゃない?」

キューリくん一瞬ひるむ。

まっ嘘だけどね。

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