ついお友だちと比べてしまう

昨日は放課後スイミングだった。

こういう時キューリくんと私は学校の最寄り駅で待ち合わせ、そしてスクールへ向かう。

ところが雨のせいなのかバスが遅れてしまい、私は5分程遅刻して待ち合わせ場所に到着する。

「遅いよ」と怒るキューリくん。

すると隣にもう一人同じ制服を着た子が立っており、名前は沢村くんという。

「あっ!やっぱりキューリくんのお母さんだ。一緒に帰ったことあるから知っているよ」

沢村くんが言うには何度か一緒に電車で帰っているらしいのだけれど、色んなお友だちとキューリくんは帰るので、正直誰がどの子ということを私は覚えていない。

沢村くんか、覚えておこう。私はそう誓った。

沢村くんは駅でも電車の中でもしっかりマナーを守るとても良い子だった。

対してキューリくんは、いつもお友だちと帰る時にそうなるように、昨日も沢村くんが一緒で嬉しくて浮かれていたのだろう、ホームでも車内でも大きな声を時折上げている。

その度に私が注意し、その場では反省するのだけれどすぐに忘れてしまうのか、また楽しくなってしまう。

心の中で半分呆れながらキューリくんに対応していると、沢村くんの真っすぐで聡明な眼差しが私を見上げ、質問してきた。

「ぼくの好きなものはなんでしょう?」

ずいぶんと範囲としては広い質問なのだけれど、何か気の利いたことを言わなければならない。私は考えた。

「おにぎり」

食べ物の質問かと思ったからだ。

「おにぎり食いてー」

キューリくんがとんちんかんな方向へ持っていく。

「違うよ」

沢村くんは少し怒っていた。

「そうじゃなくて、僕の好きなものは古い建物なんだ」

なんだろう。

「東京駅?」

「違うよ」

「城じゃない?沢村くん城好きだもん」

キューリくんは仲良しの沢村くんの趣味を知っているようで、答えを言ってしまった。

それにしても小学校低学年でお城が好きとはなかなか渋い趣味である。

「僕、大きくなったら学校の先生になりたいんだ。そうして子供たちのことを遠足でお城に連れて行ってあげるんだ!」

明確な将来設計、そして自分の好きなことを人にも伝えたいという優しさ、そんなことが感じられた。

「ぼくはディズニーランド行きたい」

キューリくんは自分の欲求ばかりだ。

沢村くんと一緒だったのは2駅間であったけれど、その間私にも席に座るように勧めてくれたり、とにかく自分のことだけを考えているわけではない、その先を考えることのできる子であった。

「さよなら」

キューリくんと私が先に電車を降りる。その時も沢村くんは決して大声で挨拶をするわけではなくて、節度あるやり方で手を振り、別れの言葉を告げた。

ホームに降りたキューリくんは「沢村くーん!」と大声で去り行く電車を追いかけて、満足しているようであった。

同じ教室で机を並べているはずなのに、どうしてこうも差があるのだろうか。

キューリくんがADHDだからか。

そもそもADHDになったのは早産で生まれてきてしまったのが原因なのではないか。

早産は私の持病のせいなのかもしれないし。

考えても仕方のないことが頭を何周も駆け巡る。

「お母さん」

駅の階段でキューリくんの小さくて少し湿った手が私の手を握る。

小学2年生にしては落ち着きがなく幼い。

けれどキューリくんの手が私の手を求めること、つまり可愛い時期が普通の子より長く続くのだ、ということに気付かされ、後悔のようなものがかき消された。

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